2024年9月13日(金)第29回目の短編小説読書会を行いました。
今回もたくさんの方にお申し込みいただき、集まったのは8名、そのうち初参加は3名でした。いつもありがとうございます。
今作の選定理由
今回江戸川乱歩『押絵と旅する男』を取り上げた理由は以下の3つです。
①サスペンスものを数ヶ月扱っているので、その関連で読んでみたかった
②江戸川乱歩は自分の作品にストイックなことで有名だが、この作品は割と自己評価が高い(「ある意味では、私の短篇の中ではこれが一番無難だといってよいかも知れない」と珍しく肯定的な言葉を残している。)
どんな意見が出るのかな、と楽しみに準備していました。
物語のあらすじ
時は大正時代、ある日、「私」は汽車の中で、1人の中年男性が車窓に絵の額縁のようなものを立てかけているのを見かける。夕暮れ時になると、その男性は額縁を風呂敷に包んで片付けた。「私」が男性の前の席に座ると、男性は風呂敷の中身を見せてくれた。そこに描かれていたのは、洋装の老人と振袖を着た美少女の押絵細工だった。
男性は、35、6年前に起きた兄の話を始める。兄は片思いの女性を双眼鏡で覗いていたが、実はその女性は押絵だったのだ。兄は双眼鏡をさかさまに覗いて自分を見ろと言い、双眼鏡の中で小さくなって消えてしまう。兄はその女性の横で同じ押絵になっていたのだ。
それ以来、男性は「兄夫婦」をいろんなところへ連れて行っている。ただし、押絵の女性は歳をとらないのに対し、兄だけが押絵の中で歳をとっていくのだった。
初読の感想
初読の感想自己紹介をした後、1人ずつ感想を話していきます。今回は賛否が分かれました。
既視感のある話だった
導入がやや長いと思った
奥深い終わり方をするなと思った
ドラマチックな展開
この男の話の真偽が気になる
などなど。
個人的には、物語の設定に矛盾がなく、かつ不気味な世界観が興味をそそる作品だと思いましたね。
考察:当時の浅草凌雲閣と絵に吸い込まれる意味
まず断っておきたいのは、今から100年以上前のお話を読むにあたって、是非とも調べておいてほしい前提知識があります。
それが「押絵」と「浅草の凌雲閣」です。
物語の重要なワードとして登場してくるので、この2つを映像として理解しているかどうかは大きいので画像検索しておいて下さい。
押絵というのは、羽子板に描かれている絵が有名ですが、貼り付けて作る立体的な絵です。
浅草の凌雲閣というのは、明治時代に浅草に作られた12階建の建物でした。建設当時は人気でしたが、すぐに人気が下がり、経営難に陥っていたようです。ウィキペディア情報ですが、浅草12階の下の一帯は銘酒屋街となっており、実態としては私娼窟と化していたため、浅草で「十二階下の女」と言うと娼婦の隠語を意味しました。しかしその後の関東大震災で崩壊してしまいました。
物語の設定として、江戸川乱歩が浅草の凌雲閣を出してきたのは、やはり意味があると思います。一目惚れした女性が実は絵の中の人物でした、というだけなら、わざわざ浅草の凌雲閣を地名として選ぶ必要はないからです。
・当時、浅草の凌雲閣は私娼窟だった
・兄が一目惚れした(と思っていた女性)は、実は押絵の人物だった
・兄はその女の人と話したいと思い絵の中に吸い込まれてしまった
・家族は家出だろうと兄を心配しない
・凌雲閣は震災で今はない
・兄は歳を取るが、押絵の中の美少女は歳を取らない
…ということは?
絵の中に人が吸い込まれるという発想のみだけでなく、何か違う意味合いも含まれているような気さえするのです。
その他
実は8月の終わり頃に引っ越しをしまして…
友人たちが引っ越し祝いということで家に集まってくれました。
何も言っていないのにお菓子を持ち寄ってくれたり、誕生日プレゼントまで用意してくれたり、本当に感謝です。
・デパ地下風にんじんサラダ
・香味野菜スープ
・ベーグル
・鶏ハム
・なんちゃってチーズケーキ
を作って食べました。(写真撮り忘れた…)
持ち寄ってくれたお菓子もみんなでいただきました。
ちなみに誕生日プレゼントでは世界の塩をいただきました。ありがとうございます。
隠れ調味料マニアとしては嬉しいです。包装も凝っててなかなかイイ感じですね。
海塩・岩塩・湖塩などいろいろあります。特に湖塩はなかなかお目にかかれないので気になります。いつか食べ比べしましょう!
ついでに塩の話をしておくと、塩(英語でSalt)は人間が生きていく上で欠かせないものであり、かつ産地が限られることから、昔はサラリー、つまり兵士の給料として使われていたとか。
スーパーでは安価な精製塩が並んでいますが、塩化ナトリウムだけのケミカルな塩は血圧の急上昇を招くので、できればカリウムやマグネシウムなどがそのまま残っている(後から添加したものはダメ)天然の塩が体にはいいです。
細かい理屈を抜きにしても天然の塩の方が美味しいですし。
詳しく知りたい方はどこかの機会で直接お話しします!笑
ともう一つ、私の母校はキリスト教カトリック系の学校だったこともあり、塩といえば必ず「世の塩、地の光」というフレーズが思い浮かびます。
あなたがたは地の塩である。だが、塩に塩気がなくなれば、その塩は何によって塩味が付けられよう。もはや、何の役にも立たず、外に投げ捨てられ、人々に踏みつけられるだけである。
あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。
また、ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。
そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである。」
マタイ 5章13~16節 地の塩、世の光
塩という言葉には、味付け・防腐剤・浄化作用など様々な含みを持たせているのでしょうが、素材を引き立てる存在でありたいと思うこの頃です。
次回読書会について
次回読書会の日程は未定です。
宮部みゆきの短編集『幻色江戸ごよみ』に収録されています。
皆さんの参加をお待ちしています。